一 都へ還る大軍が、下邳城を立ち出で、徐州へかえると、沿道の民は、ちまたに溢れて、曹操以下の将士へ、歓呼を送った。 その中から、一群れの老民が道に拝跪しながら進みでて、曹操の馬前に懇願した。 「どうか、劉玄徳様を、太守と...
一 「劉氏。もし、劉氏ではありませんか」 誰か呼びかける人があった。 その日、劉玄徳は、朱雋の官邸を訪ねることがあって、王城内の禁門の辺りを歩いていた。 振向いてみると、それは郎中張均であった。張均は今、参内すると...
一 ようやく許都に帰りついた曹操は帰還の軍隊を解くにあたって、傍らの諸将にいった。 「先頃、安象で大敵に待たれた時、見つけない一名の将が手勢百人たらずを率い、予の苦戦を援けていたが、さだめし我に仕官を望む者であろう。いずれの隊...
一 諸州の浪人の間で、 「近ごろ兗州の曹操は、頻りと賢を招き、士を募って、有能の士には好遇を与えるというじゃないか」と、もっぱら評判であった。 聞きつたえて、兗州(山東省西南部)へ志してゆく勇士や学者が多かった。 ...
一 時刻ごとに見廻りにくる巡邏の一隊であろう。 明け方、まだ白い残月がある頃、いつものように府城、官衙の辻々をめぐって、やがて大きな溝渠に沿い、内院の前までかかってくると、ふいに巡邏のひとりが大声でいった。 「ひどく早い...
一 冬が来た。 連戦連勝の蜀軍は、巫峡、建平、夷陵にわたる七十余里の戦線を堅持して、章武二年の正月を迎えた。 賀春の酒を、近臣に賜うの日、帝玄徳も微酔して、 「雪か、わが鬢髪か。思えば朕も老いたが、また帷幕の諸大将...