一 孔明の家、諸葛氏の子弟や一族は、のちに三国の蜀、呉、魏――それぞれの国にわかれて、おのおの重要な地位をしめ、また時代の一方をうごかしている関係上、ここでまず諸葛家の人々と、孔明そのものの為人を知っておくのも、決してむだではなか...
一 斗酒を傾けてもなお飽かない張飛であった。こめかみの筋を太らせて、顔ばかりか眼の内まで朱くして、勅使に唾を飛ばして云った。 「いったい、朝廷の臣ばかりでなく、孔明なども実に腑抜けの旗頭だ。聞けば、孔明はこんど皇帝の補佐たる丞...
一 大河は大陸の動脈である。 支那大陸を生かしている二つの大動脈は、いうまでもなく、北方の黄河と、南方の揚子江とである。 呉は、大江の流れに沿うて、「江東の地」と称われている。 ここに、呉の長沙の太守孫堅の遺子孫...
一 魏の大軍が呉へ押襲せてくるとの飛報は、噂だけにとどまった。 嘘でもなかったが、早耳の誤報だったのである。 この冬を期して、曹操が宿望の呉国討伐を果たそうとしたのは事実で、すでに南下の大部隊を編制し、各部の諸大将の任...
一 街は戸ごとに燈火をつらね、諸門の陣々も篝に染まり、人の寄るところ、家のあるところ、五彩の燈にいろどられているため、こよい正月十五日の夜、天上一輪の月は、なおさら美しく見えた。 王必の営中では、宵の口から酒宴がひらかれ、将...
一 西涼(甘粛省・蘭州)の地方におびただしい敗兵が流れこんだ。 郿塢の城から敗走した大軍だった。 董卓の旧臣で、その四大将といわれる李傕、張済、郭汜、樊稠などは、連名して、使者を長安に上せ、 「伏して、赦を乞う」 ...
一 百官の拝礼が終って、 「新帝万歳」の声が、喪の禁苑をゆるがすと共に、御林軍(近衛兵)を指揮する袁紹は、 「次には、陰謀の首魁蹇碩を血まつりにあげん」 と、剣を抜いて宣言した。 そしてみずから宮中を捜しまわっ...
一 楊奉の部下に、徐晃、字を公明と称ぶ勇士がある。 栗色の駿馬に乗り、大斧をふりかぶって、郭汜の人数を蹴ちらして来た。それに当る者は、ほとんど血煙と化して、満足な形骸も止めなかった。 郭汜の手勢を潰滅してしまうと楊奉は...
一 時は、中平六年の夏だった。 洛陽宮のうちに、霊帝は重い病にかかられた。 帝は病の篤きを知られたか、 「何進をよべ」 と、病褥から仰せ出された。 大将軍何進は、すぐ参内した。何進はもと牛や豚を屠殺して...
一 都へ還る大軍が、下邳城を立ち出で、徐州へかえると、沿道の民は、ちまたに溢れて、曹操以下の将士へ、歓呼を送った。 その中から、一群れの老民が道に拝跪しながら進みでて、曹操の馬前に懇願した。 「どうか、劉玄徳様を、太守と...
一 「劉氏。もし、劉氏ではありませんか」 誰か呼びかける人があった。 その日、劉玄徳は、朱雋の官邸を訪ねることがあって、王城内の禁門の辺りを歩いていた。 振向いてみると、それは郎中張均であった。張均は今、参内すると...