一 「ああ危なかった」 虎口をのがれたような心地を抱えて、董承はわが邸へいそいだ。 帰るとすぐ、彼は一室に閉じこもって、御衣と玉帯をあらためてみた。 「はてな。何物もないが?」 なお、御衣を振い、玉帯の裏表を調...
一 「大王が帰ってきた」 「大王は生きている」 と、伝え合うと、諸方にかくれていた敗軍の蛮将蛮卒は、たちまち蝟集して彼をとり巻いた。そして口々に、 「どうして蜀の陣中から無事に帰ってこられたので?」 と、怪訝顔し...