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New Word破軍星
一 七夕の宵だった。 城内の街々は、紅燈青燈に彩られている。 荊州の城中でも、毎年の例なので、孔明は、主君玄徳の留守ながら、祭を営み、酒宴をもうけて、諸大将をなぐさめていた。 すると、夜も更けてきた頃、一つの大き...
天血の如し
一 さきに街亭の責めを負うて、孔明は丞相の職を朝廷に返していた。今度、成都からの詔書は、その儀について、ふたたび旧の丞相の任に復すべしという、彼への恩命にほかならなかった。 「国事いまだ成らず、また以後、大した功もないのに、何...
秋風五丈原
一 魏の兵が大勢して仔馬のごとく草原に寝ころんでいた。 一年中で一番季節のよい涼秋八月の夜を楽しんでいるのだった。 そのうちに一人の兵が不意に、あっといった。 「やっ。何だろう?」 また、ひとりが指さし、その...
蜀山遠し
一 閑話休題―― 千七百年前の支那にも今日の中国が見られ、現代の中国にも三国時代の支那がしばしば眺められる。 戦乱は古今を通じて、支那歴史をつらぬく黄河の流れであり長江の波濤である。何の宿命かこの国の大陸には数千年のあ...
出師の表
一 馬謖は云った。 「なぜか、司馬懿仲達という者は、あの才略を抱いて、久しく魏に仕えながら、魏では重く用いられていません。彼が曹操に侍いて、その図書寮に勤めていたのは、弱冠二十歳前後のことだと聞いています。曹操、曹丕、曹叡、三...
ネジ
一 「張虎と楽綝か。早速見えて大儀だった。まあ、腰かけてくれ」 「懿都督。何事ですか」 「ほかでもないが、近頃、敵の孔明がたくさんにつくらせたという木牛流馬なるものを、貴公らは見たか」 「いやまだ目撃しません」 「剣...
月落つ麦城
一 進まんか、前に荊州の呉軍がある。退かんか、後には魏の大軍がみちている。 眇々、敗軍の落ちてゆく野には、ただ悲風のみ腸を断つ。 「大将軍。試みに、呂蒙へお手紙を送ってみたら如何ですか。かつて呂蒙が陸口にいた時分は、よく...
成都陥落
一 馬超は弱い。決して強いばかりの人間ではなかった。理に弱い。情にも弱い。 李恢はなお説いた。 「玄徳は、仁義にあつく、徳は四海に及び、賢を敬い、士をよく用いる。かならず大成する人だ。こういう公明な主をえらぶに、何でうし...
関平
一 樊城の包囲は完成した。水も漏らさぬ布陣である。関羽はその中軍に坐し、夜中ひんぴんと報じてくる注進を聞いていた。 曰く、 魏の援軍数万騎と。 曰く、 大将于禁、副将龐徳、さらに魏王直属の七手組七人の大将も...
古城窟
一 何思ったか、関羽は馬を下り、つかつかと周倉のそばへ寄った。 「ご辺が周倉といわれるか。何故にそう卑下めさるか。まず地を立ち給え」と、扶け起した。 周倉は立ったが、なお、自身をふかく恥じるもののように、 「諸州大乱...
二度祁山に出づ
一 漢中滞陣の一ヵ年のうちに、孔明は軍の機構からその整備や兵器にまで、大改善を加えていた。 たとえば突撃や速度の必要には、散騎隊武騎隊を新たに編制して、馬に練達した将校をその部に配属し、また従来、弩弓手として位置も活用も低か...
鬢糸の雪
一 「えっ、荊州が陥ちた?」 関平は戦う気も萎え、徐晃をすてて一散に引っ返した。混乱するあたまの中で、 「ほんとだろうか? まさか?」 と、わくわく思い迷った。 そして堰城近くまで駈けてくると、こはいかに城は濛...
賭
一 魏の総勢が遠く退いた後、孔明は八部の大軍をわけて箕谷と斜谷の両道からすすませ、四度祁山へ出て戦列を布かんと云った。 「長安へ出る道はほかにも幾条もあるのに、丞相には、なぜいつもきまって、祁山へ進み出られるのですか」 ...
荊州変貌
一 呉は大きな宿望の一つをここに遂げた。荊州を版図に加えることは実に劉表が亡んで以来の積年の望みだった。孫権の満悦、呉軍全体の得意、思うべしである。 陸口の陸遜も、やがて祝賀をのべにこれへ来た。その折、列座の中で呂蒙は、 ...
私情を斬る
一 漢中王の劉玄徳は、この春、建安二十五年をもって、ちょうど六十歳になった。魏の曹操より六ツ年下であった。 その曹操の死は、早くも成都に聞え、多年の好敵手を失った玄徳の胸中には、一抹落莫の感なきを得なかったろう。敵ながら惜し...
烽火台
一 瑾の使いは失敗に帰した。ほうほうの態で呉へ帰り、ありのままを孫権に復命した。 「推参なる長髯獣め。われに荊州を奪るの力なしと見くびったか」 孫権は、荊州攻略の大兵をうごかさんとして、その建業城の大閣に、群臣の参集を求...
成都鳴動
一 宮殿の廂をこえて、月の光は玄徳の膝の辺まで映している。妃は、燭が消えているのに気づいて、侍女を呼んで明りをつけさせながら、 「どうなさいましたか」 と、玄徳の側へ寄った。 「いや、几に倚って、独り書を読んでいたの...
関羽千里行
一 時刻ごとに見廻りにくる巡邏の一隊であろう。 明け方、まだ白い残月がある頃、いつものように府城、官衙の辻々をめぐって、やがて大きな溝渠に沿い、内院の前までかかってくると、ふいに巡邏のひとりが大声でいった。 「ひどく早い...