李厳

具眼の士

一。　多年軍需相として、重要な内政の一面に才腕をふるっていた李厳の退職は、何といっても、蜀軍の一時的休養と、延いては国内諸部面の大刷新を促さずにはおかなかった。　蜀道の嶮岨は、事実、誰がその責任者に当っても、克服することのできない自然的条件であり、加うるに、蜀廷の朝臣には、孔明のほかに孔明なく、外征久しきにわたるあいだには、きまって何かの形で、その弱体な内紛が現われずにいなかった。　孔明の苦労は実にこの二つにあったといってよい。

五丈原の巻 本文 三国志

北斗七星旗

そして目に余るほどな魏の大軍に反撃を加え、遂には、先を争って城外へ突出し、雍涼勢の新手をも粉砕して、数日の間に、さしもの敵を遠く退けてしまった。　けれど一難去ればまた一難。全城凱歌に沸き満ちているいとまもなく、永安城にある味方の李厳から計らずも意外な情報を急に告げてきた。

五丈原の巻 本文 三国志

南蛮行

　と、別れともない容子をされたが、孔明は、否と顔を振って、 。「私がおらなくても、四境の守りは大丈夫です。ことに、白帝城には、李厳をこめておきましたから、あの者ならば、呉の陸遜の智謀もよく防ぐでしょう。また、魏は昨年、呉へ迫って、いたく兵力大船を損じていますから、にわかに、野望を他へ向ける気力はないものと見てさしつかえありません」 。　それからいろいろ慰めて、しばしの暇を仰ぐと、後主もついに頷かれたが、傍らにいた諫議大夫の王連がまた、 。

出師の巻 本文 三国志

成都陥落

　左将軍劉巴。　右将軍黄権。　などという錚々たる人物があるし、なお、呉懿、費観、彭義、卓膺、費詩、李厳、呉蘭、雷同、張翼、李恢、呂義、霍峻、鄧芝、孟達、楊洪あたりの人々でも、それぞれ有能な人材であり、まさに多士済々の盛観であった。「自分が国を持ったからには、それらの将軍たちにも、田宅をわけ与えて、その妻子にまで、安住を得させたいが」 。　ある時、玄徳がこう意中をもらすと、趙雲はそれに反対した。

本文 三国志 遠南の巻

木門道

一。　永安城の李厳は、増産や運輸の任に当って、もっぱら戦争の後方経営に努め、いわゆる軍需相ともいうべき要職にある蜀の大官だった。　今その李厳から来た書簡を見ると、次のようなことが急告してある。近ゴロ聞ク東呉、人ヲシテ洛陽ニ入ラシム。

五丈原の巻 本文 三国志

秋風五丈原

　――吾終ニ袵ヲ左ニセン 。　といったということである。　またさきに梓潼郡に流されていた前軍需相の李厳も、 。「孔明が生きてあらん程には、いつか自分も召し還されることがあろうと楽しんでいたが、あの人が亡くなられては、自分が余命を保っている意味もない」 。　といって、その後ほどなく、病を得て死んだといわれている。

五丈原の巻 本文 三国志

竈

 孔明は、拠るところの祁山へ兵を収めたが、勝ち軍に驕るなかれと、かえって全軍を戒めていた。そしていよいよ初志の目標にむかい、長安、洛陽へ一途進撃して、漢朝一統の大業を果さんものとかたく期していたが、ここに測らずも軍中の一些事から、やがて大きな蹉跌を来たすにいたった。 後方の増産運輸に力を入れていた李厳が、永安城から前線へ兵糧を送らせて来た。その奉行は都尉苟安という男だったが、酒好きのため、途中でだいぶ遊興に日を怠り、日限を十日余りも遅れてやっと祁山に着いた。「はて、なんと弁解しようか」 。

五丈原の巻 本文 三国志