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New Word橋畔風談
一 蟠桃河の水は紅くなった。両岸の桃園は紅霞をひき、夜は眉のような月が香った。 けれど、その水にも、詩を詠む人を乗せた一艘の舟もないし、杖をひいて逍遥する雅人の影もなかった。 「おっ母さん、行ってきますよ」 「ああ、...
報恩一隻手
一 顔良の疾駆するところ、草木もみな朱に伏した。 曹軍数万騎、猛者も多いが、ひとりとして当り得る者がない。 「見よ、見よ。すでに顔良一人のために、あのさまぞ。――だれか討ち取るものはいないか」 曹操は、本陣の高所に...
五関突破
一 胡華の家を立ってから、破蓋の簾車は、日々、秋風の旅をつづけていた。 やがて洛陽へかかる途中に、一つの関所がある。 曹操の与党、孔秀というものが、部下五百余騎をもって、関門をかためていた。 「ここは三州第一の要害...
恋の曹操
一 小沛、徐州の二城を、一戦のまに占領した曹操の勢いは、旭日のごときものがあった。 徐州には、玄徳麾下の簡雍、糜竺のふたりが守っていたが、城をすててどこかへ落ち去ってしまい、あとには陳大夫、陳登の父子が残っていて、内から城門...
黄河を渡る
一 顔良が討たれたので、顔良の司令下にあった軍隊は支離滅裂、潰走をつづけた。 後陣の支援によって、からくも頽勢をくい止めたものの、ために袁紹の本陣も、少なからぬ動揺をうけた。 「いったい、わが顔良ほどな豪傑を、たやすく討...
燈花占
一 関羽が、顔良を討ってから、曹操が彼を重んじることも、また昨日の比ではない。 「何としても、関羽の身をわが帷幕から離すことはできない」 いよいよ誓って、彼の勲功を帝に奏し、わざわざ朝廷の鋳工に封侯の印を鋳させた。 ...
増長冠
一 下邳は徐州から東方の山地で、寄手第六軍の大将韓暹は、ここから徐州へ通じる道を抑え、司令部を山中の嘯松寺において、総攻撃の日を待っている。 もちろん、街道の交通は止まっている。野にも部落にも兵が満ちていた。 ――けれ...
草喰わぬ馬
一 関平も父の姿をさがし求めているうちに、朱然、潘璋の軍勢に生捕られた。そして荒縄にかけられて呉侯孫権の陣へひかれてゆく間も、父関羽の名を叫び、無念無念をくり返していた。 報を聞いて孫権は、翌る日、早暁に帳を出て、馬忠に関羽...
三花一瓶
一 母と子は、仕事の庭に、きょうも他念なく、蓆機に向って、蓆を織っていた。 がたん…… ことん がたん 水車の回るような単調な音がくり返されていた。 だが、その音にも、きょうはなんとなく活気があり、歓...
軍師の鞭
一 樊城へ逃げ帰った残兵は、口々に敗戦の始末を訴えた。しかも呂曠、呂翔の二大将は、いくら待っても城へ帰ってこなかった。 すると程経てから、 「二大将は、残りの敗軍をひきいて帰る途中、山間の狭道に待ち伏せていた燕人張飛と名...
雲長
雲長(うんちょう)とは、中国後漢末期から三国時代にかけて活躍した武将、関羽(かんう)の字(あざな)です。一般的には関羽のことを指します。 関羽は、もともと山西省解県出身の武人で、劉備を義兄弟(劉備、張飛とともに「桃園の誓い」を結ぶ)...
童学草舎
一 城壁の望楼で、今しがた、鼓が鳴った。 市は宵の燈となった。 張飛は一度、市の辻へ帰った。そして昼間ひろげていた猪の露店をしまい、猪の股や肉切り庖丁などを苞にくくって持つとまた馳けだした。 「やあ、遅かったか」 ...
関羽千里行
一 時刻ごとに見廻りにくる巡邏の一隊であろう。 明け方、まだ白い残月がある頃、いつものように府城、官衙の辻々をめぐって、やがて大きな溝渠に沿い、内院の前までかかってくると、ふいに巡邏のひとりが大声でいった。 「ひどく早い...