木牛流馬
めったに感情を激さない司馬懿も、この時ばかりはよほど口惜しかったとみえて、退陣の途中も歯がみをした。 しかもその頃になると、空はふたたび晴れて、晃々たる月天に返り、一時の黒雲は夢かのように考えられた。で、生き残って帰る魏将士の間には、誰いうとなく、「これは孔明が、八門遁甲の法を用いて、われらを黒霧のうちに誘い、また後には、六丁六甲の神通力を以て、黒霧をはらい除いたせいである」 。 というような妖言を放って、しかも誰もそれを疑わなかった。「ばかを申せ、彼も人、我も人。
五丈原の巻
本文
三国志