六甲
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迷いにとらわれて、一つ所に人馬の旋風を巻いていた。そこへ後ろから馬を飛ばしてきた仲達が、口々にいう嘆を聞いて、さてはと悟り顔に、 。「察するにこれは、孔明のよくなす八門遁甲の一法、六甲天書のうちにいう縮地の法を用いたものであろう。悪くすると冥闇必殺の危地へ誘いこまれ、全滅の憂き目にあうやも測り難い。もはや追うな。
めったに感情を激さない司馬懿も、この時ばかりはよほど口惜しかったとみえて、退陣の途中も歯がみをした。 しかもその頃になると、空はふたたび晴れて、晃々たる月天に返り、一時の黒雲は夢かのように考えられた。で、生き残って帰る魏将士の間には、誰いうとなく、「これは孔明が、八門遁甲の法を用いて、われらを黒霧のうちに誘い、また後には、六丁六甲の神通力を以て、黒霧をはらい除いたせいである」 。 というような妖言を放って、しかも誰もそれを疑わなかった。「ばかを申せ、彼も人、我も人。
次に呼ばれたのは張嶷であった。張嶷に対しては、こういう奇策が授けられた。「汝は、五百の兵をもって、六丁六甲の鬼神軍に仕立て兵にはみな鬼頭を冠らせ、面を塗って妖しく彩らせよ。そしておのおの黒衣素足、手に牙剣をひっさげ旗を捧げ、腰には葫芦をかけて内に硫黄煙硝をつめこみ、山陰にかくれていて、郭淮の部下がわが王平軍を追いちらし、木牛流馬を曳いてかえらんとする刹那に彼を襲え。必定敵は狼狽驚愕、すべてを捨てて逃げ去るにきまっている。
「なぜ止めるか」 。「この前の例もあります。孔明は八門遁甲の法を得て、六丁六甲の神をつかいます。或いは、天象に奇変を現わすことだってできない限りもありません」 。「ばかな。