大夏
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蜀の玄徳ともある者が目に見えるだけの布陣を以て、身を呉の陣前にさらすわけはない。――浅慮に彼の罠へ士卒を投じるの愚をなすな。幸いなるかな、ときは今、大夏のこの炎天。われ出でず戦わず、ひたすら陣を守って日を移しておるならば、彼は、曠野の烈日に、日々気力をついやし、水に渇し、ついには陣を引いて山林の陰へ移るであろう。そのときに至れば、かならず陸遜は号令一下、諸将の奮迅をうながすであろう。
――来らば」 。 と、手具脛ひいて待つ所へ、魏軍三万の張郃、戴陵はほとんど鎧袖一触の勢いでこれへ当ってきた。 時は大夏六月。人馬は汗にぬれ、草は血に燃え、一進一退、叫殺、天に満つばかりだった。 蜀は、時に急に、時に緩に、やがて約二十里もくずれ、さらに五十里も追われた。