降参船
ご辺の忠魂は、いささか疑う者はない。けれど、思い出し給え。その以前、御身は曹操に篤う遇せられて、都を去る折、彼の情誼にほだされて、他日かならずこの重恩に報ぜんと、誓ったことがおありであろうが――今、曹操は烏林に敗れ、その退路を華容道にとって、かならず奔亡して来るであろう。ゆえに、ご辺をもって、道に待たしめ、曹操の首を挙げることは、まことに嚢の物を取るようなものだが、ただ孔明の危ぶむところは、今いうた一点にある。ご辺の性情として、かならず、旧恩に動かされ、彼の窮地に同情して、放し免すにちがいな...
本文
望蜀の巻
三国志