出師の表
――かならずご宸念をお煩わし遊ばしますな」と、ただただ慰めて、ひとまず退がった。 ところが、ひとり後主劉禅の憂いに止まらず、出師の表によって掲げられた孔明の「北伐の断行」は、俄然、蜀の廟堂に大きな不安を抱かしめた。 なぜならば、この蜀漢の地は、先帝玄徳が領治して以来、余りにもまだ国家としての歴史が若く、かつは連年の軍役に、まだとうてい魏や呉の強大と対立するだけの実力は内に蓄えられていない。 一昨年、南方平定のため、その遠征に費やした資材、人員だけでも、実のところ、内政財務の吏も一時はひそかに...
出師の巻
本文
三国志