使嗾
冒頭
使嗾(しそう)とは、他人をそそのかして特定の行動を起こさせること、特に争い・攻撃・謀反などをけしかけて実行させることです。吉川英治『三国志』では、表向きは忠告や同盟の形をとりつつ、裏では相手に出兵や対立行動を取らせる政治的工作を指す語として用いられます。
概要
「使」は使役する意、「嗾」はけしかける意を持ち、合わせて「誰かを動かして狙いどおりに事を起こさせる」含みを帯びます。単なる助言よりも、意図的な誘導や策謀の色が濃い語で、当事者が前面に立たずに第三者を動かす局面に適します。袁紹が公孫瓚を動かし、同時に韓馥へ書面を送って危機感を煽る場面では、韓馥が「袁紹が一方では公孫瓚を使嗾している」ことを知らない、と説明され、二重工作の要点を示しています。
意味
当時の群雄割拠では、正面衝突を避けつつ敵対勢力を削るため、他者同士を衝突させる策が多用されました。「使嗾」は、そのような間接戦略を表す語であり、使嗾する側は責任や危険を回避し、使嗾された側は自発的判断と思い込みやすい点が特徴です。袁術が孫堅の出兵の「動機」を作ったものとして「袁術の使嗾」が挙げられ、軍事行動の背後にある誘発・扇動のニュアンスが明確に示されています。
関連する文脈
使嗾は、書面による「忠言」や同盟の誘い、危機情報の流布などと結びつき、受け手の恐怖・利害・面子を刺激して行動を選ばせる形をとります。韓馥が袁紹の警告を信じ、群臣も「力を頼んで」迎えるべきだと傾く過程は、使嗾が単独の命令ではなく、状況認識の操作として働くことを示します。
吉川三国志での扱いと史実や演義との違いとしては、「使嗾」自体は人物・事件固有の改変点ではなく、策謀や扇動を表す一般的な語として用いられます。