冒頭 御車(みくるま)とは、天子や皇族など高貴な身分の者が乗る車を敬っていう語です。吉川英治『三国志』では、漢帝(献帝)の乗輿としての御車が、護衛や争奪の対象となる場面で頻出します。 概要 御車は「車」という実体だけ...
冒頭 許州(きょしゅう)とは、吉川英治『三国志』では主に許昌を中心とする地域・首府を指し、献帝が奉迎されて以後は「許都」とも呼ばれる後漢朝廷の所在(事実上の中央)です。曹操の軍と帝の御車が許昌の都門に到着し、旧い宮門殿閣を整え...
冒頭 参内(さんだい)とは、天子のいる宮中へ出向き、朝廷の儀礼や拝謁、奏上などに参与することです。吉川英治『三国志』では、勅命によって宮中へ急行する場合や、権力者が人を宮中に伴って栄誉を与える場合に用いられます。 概要 ...
冒頭 御内詔(ぎょないしょう)とは、天子がごく内々に下す詔書、またはその趣旨を指し、公式の手続きを経て公布される「詔」と区別される秘密命令です。 概要 「内詔」は本来、朝廷内の限られた者にのみ伝達される性格をもち、受...
冒頭 九族(きゅうぞく)とは、罪人本人だけでなく、その近親一門までを同罪として処罰の対象に含めるという、古代中国の連座的な刑罰観念を指す語です。 概要 「一人謀叛すれば九族滅す」という形で、謀反など国家秩序を覆す大罪に対し、...
冒頭 密詔(みっしょう)とは、天子が人目を避けて特定の臣下に下す秘密の詔書です。公的な詔勅と異なり、宮中の監視や権臣の影響を避けて意思を伝えるため、伝達や保管にも秘匿の工夫を伴います。 概要 吉川英治『三国志』では、...
冒頭 議郎(ぎろう)とは、朝廷で政務に意見を述べて参与する役職で、小説中では「参議という意味の役」と説明されます。 概要 議郎は、枢密の政事にも関わり得る立場として描かれ、霊帝期には十常侍の中心人物である張譲・趙忠ら...
冒頭 朝廷(ちょうてい)とは、天子を中心に公卿百官が政務と儀礼を執り行う中央政府の総称です。 概要 吉川英治『三国志』の時代における朝廷は後漢の献帝の宮廷を指し、都の移転や軍閥の専横によって統治機能が揺らぎつつも、官...
冒頭 漢室(かんしつ)とは、前漢・後漢を通じて四百年余つづいた漢王朝の皇帝家と、その正統性を指す呼称です。 概要 吉川英治『三国志』では、漢室は単なる王朝名ではなく、天子を中心とする朝廷の権威、宗廟や系譜に支えられた...
弘農(こうのう)とは 後漢から三国志期にかけて存在した地名で、現在の中国・河南省西部(三門峡市一帯)にあたる。黄河中流域に位置し、交通と軍事の要地であった。 土地の歴史 弘農郡は前漢の武帝の時代に設置され、函谷関に近...
一 董承に対面を強いて、客堂で出会うとすぐに曹操は彼にただした。 「国舅のお手もとへは、予から出した招待の信箋が届かなかったであろうか」 「いや、ご書箋はいただいたが、折返して不参のおもむきを、書面でお断り申しあげてある」...
一 かねて董承に一味して、義盟に名をつらねていた西涼の太守馬騰も、玄徳が都を脱出してしまったので、 「前途はなお遼遠――」 と見たか、本国に胡族の襲来があればと触れて、にわかに、西涼へさして帰った。 時しも建安四年...
一 昼は人目につく。 董承は或る夜ひそかに、密詔をふところに秘めて頭巾に面をかくして、 「風雅の友が秦代の名硯を手に入れたので、詩会を催すというから、こよいは一人で行ってくる」 と、家人にさえ打明けず、ただ一人驢に...
一 「ああ危なかった」 虎口をのがれたような心地を抱えて、董承はわが邸へいそいだ。 帰るとすぐ、彼は一室に閉じこもって、御衣と玉帯をあらためてみた。 「はてな。何物もないが?」 なお、御衣を振い、玉帯の裏表を調...
一 冬をこえて南枝の梅花のほころぶを見るとともに、董家の人々も眉をひらいた。近ごろ主人の董承はすっかり体も本復して、時おり後閣の春まだ浅い苑に逍遥する姿などを見かけるようになったからである。 「……雁が帰る。燕が来る。春は歩い...
一 幾日かをおいて、玄徳は、きょうは先日の青梅の招きのお礼に相府へ参る、車のしたくをせよと命じた。 関羽、張飛は口をそろえて、 「曹操の心根には、なにがひそんでいるか知れたものではない。才長けた奸雄の兇門へは、こっちから...
一 龐統はその日から、副軍師中郎将に任ぜられた。 総軍の司令を兼ね、最高参謀府にあって、軍師孔明の片腕にもなるべき重職についたわけである。 建安十六年の初夏の頃。 魏の都へ向って、早馬を飛ばした細作(諜報員)は、...
一 漢中の境を防ぐため、大軍を送りだした後も、曹操は何となく、安からぬものを抱いていた。 管輅の予言に。――明春早々、都のうちに、火の災いあらん――とあるそのことだった。 「都というからには、もちろん、この鄴都ではあるま...
一 せっかく名医に会いながら、彼は名医の治療を受けなかった。のみならず華陀の言を疑って、獄へ投じてしまったのである。まさに、曹操の天寿もここに尽きるの兆というほかはない。 ところが、典獄の呉押獄は、罪なき華陀の災難を気の毒に...
一 粛正の嵐、血の清掃もひとまず済んだ。腥風都下を払って、ほっとしたのは、曹操よりも、民衆であったろう。 曹操は、何事もなかったような顔をしている。かれの胸には、もう昨日の苦味も酸味もない。明日への百計にふけるばかりだった。...
一 劉備玄徳は、毎日、無為な日に苦しんでいた。 ここ河北の首府、冀州城のうちに身をよせてから、賓客の礼遇をうけて、なに不自由もなさそうだが、心は日夜楽しまない容子に見える。 なんといっても居候の境遇である。それに、万里...
一 禁苑の禽は啼いても、帝はお笑いにならない。 簾前に花は咲いても、帝のお唇は憂いをとじて語ろうともせぬ。 きょうも終日、帝は、禁中のご座所に、物思わしく暮しておわした。 三名の侍女が夕べの燭を点じて去る。 ...
一 そのむかし、まだ洛陽の一皇宮警吏にすぎなかった頃、曹操という白面の青年から、おれの将来を卜してくれといわれて、 「おまえは治世の能臣だが、また乱世の奸雄だ」 と予言したのは、洛陽の名士許子将という人相観だった。 ...
一 楊奉の部下に、徐晃、字を公明と称ぶ勇士がある。 栗色の駿馬に乗り、大斧をふりかぶって、郭汜の人数を蹴ちらして来た。それに当る者は、ほとんど血煙と化して、満足な形骸も止めなかった。 郭汜の手勢を潰滅してしまうと楊奉は...
一 「張飛。――欠伸か」 「ムム、関羽か。毎日、することもないからな」 「また、飲んだのだろう」 「いや、飲まん飲まん」 「夏が近いな、もう……」 「梅の実も大きくなってきた。しかし一体、うちの大将は、どうしたも...