黄蓋
黄蓋(こうがい)とは
三国志に登場する呉(孫権政権)の宿将。江東の古参として孫堅・孫策・孫権の三代に仕え、赤壁の戦いで決定打となった「苦肉の計」を体現したことで名高い。吉川英治『三国志』でも、遼東の老将としての剛毅と胆力、そして計略に身を投げ出す義の人として描かれる。
生涯
江東の在地勢力の将として若くから孫堅に従い、袁術配下の遠征でも活躍。孫策の江東平定期には山越討伐や郡県の鎮撫を担い、軍政両面で功を立てる。主君が孫権に代わったのち、曹操の南下に対して周瑜と歩調を合わせて抗戦。赤壁の戦い(建安十三年頃)で火攻めの主役を務め、戦局を一変させた。以後も呉の将として在職したが、史書では赤壁後の詳伝は多くなく、晩年は軍の重鎮として終えたとされる。
人物
質朴で剛直、厳令を好む軍人肌。年老いても気力旺盛で、身を挺して計を貫く胆力があった。吉川英治の筆では、古武人の渋みと義烈が前面に出る。
関連する人物
周瑜:赤壁での同僚。苦肉の計を容れ、連携して火攻策を整えた。
有名なエピソード
苦肉の計と投降偽装:黄蓋が自ら鞭打ちの刑を願い出て周瑜が公開厳罰を加え、両者の不和を敵に信じ込ませた。黄蓋はその後、曹操に降ると偽って火薬・油を満載した艦隊で接近し、風向きを読んで一斉に点火。連環で結ばれた魏艦隊に火の奔流を送り込み、赤壁勝利の決定打となった。
苦肉の計の覚悟:表向きの処刑に耐え兵の前で辱めを受けることで計を成し、身命を賭す姿が「義将」像を象徴する。
有名なセリフとその背景
周瑜への進言における「苦肉の策」受諾の言葉(諸本で表現は異同あり):自らの体を痛めてでも大義に資する覚悟を示す一節として伝えられ、吉川版でも老将の気骨を象徴するクライマックスに配される。
吉川版では黄蓋は「老いを誇る胆勇の人」として強い光が当たり、苦肉の計は劇的に脚色される。史実(陳寿『三国志』および『江表伝』逸文など)でも投降偽装と火攻の骨格は確認できるが、台詞や感情表現、刑罰の場面の演出は文学的に増幅されている。火攻の成功要因としての東南の風や連環計の連携は史実伝承にも見えるが、黄蓋の個人英雄譚としての比重は小説のほうが大きい。
「黄蓋」の基本情報
総登場回数
84回
活動期間
4巻にわたって登場
初回登場
群星の巻
最終登場
望蜀の巻
最も活躍した巻
赤壁の巻
(50回登場)