郭汜
郭汜(かくし)とは、後漢末の群雄の一人で、董卓死後に李傕と結び長安の朝廷を壟断し、献帝を脅しながら権勢をふるった武将です。長安支配ののち李傕と不和に陥り、天子をめぐって争奪・和睦・離反を繰り返す混乱の中心人物として描かれます。
生涯
董卓亡き後、李傕と並んで長安政権を握り、民政を顧みず専横を重ねたため「董卓が一人死んだと思ったら、いつのまにか二人の董卓ができた」と民に怨嗟されたと記されます。やがて李傕との間に猜疑が芽生え、長安城下で流血の抗争を勃発させます。混乱のなか李傕方が献帝を郿塢へ移すと、郭汜は宮廷に乱入して朝臣を斬り、後宮の女たちを拉致する暴挙に及びます。その後、張済の仲裁でいったん和睦しつつも、献帝の還幸行に追撃をかけ、橋を守らせた部将が帝の真姿にひれ伏して通してしまうと、二将を即刻斬首して追撃を強行する苛烈さを見せます。さらに、献帝を奪取しようとした郭汜は楊奉軍の急襲に遭い、徐晃の猛撃に大敗を喫します。最終的には曹操の台頭を前に、賈詡の諫止にも耳を貸さず強戦を望むも、形勢は不利で、郭汜・李傕陣営の窮境が語られています。
人物
性急で猜疑心が強く、権力に酔えば苛烈、劣勢に追い込まれると短慮に走る側面が反復して描かれます。仲裁の使者である楊彪ら群臣を一括して縛り上げ、人質に転用する場面はその典型です。
有名なエピソード
楊彪夫妻の反間計により、郭汜の夫人が李傕の毒謀を信じ込む巧妙な場面は、吉川版の白眉です。夫人がまず犬に料理を与えて毒死させ、郭汜の猜疑心を一気に焚きつけるくだりが鮮烈に描かれます。その後、李傕の饗応を受けて帰途に吐き気を覚えた郭汜が、夫人の与えた怪しげな「解毒」で動転し、疑念を決定的にしていく描写は、両者の決裂へ雪崩れ込む引金となります。また、献帝一行を追撃し、橋を守る自軍が帝を敬って通してしまうと、その場で二将を斬って追撃を命じる場面は、権勢維持のために手段を選ばない苛厳ぶりを示します。さらに、城外で李傕と馬上相対し、郭汜が「郭汜、万民に代って汝の罪を問う」と叫んで一騎打ちに及ぶ緊迫の場面は、仲裁に入った楊彪が両軍を引き分ける転機として語られます。
関連する人物
李傕(りかく)とは覇権を二分した盟友にして仇敵で、長安を舞台に抗争と和睦を反復します。献帝は郭汜の専横に最も苦しんだ当事者で、帝の還幸をめぐる追撃・救出の諸場面は物語の大きなうねりを生みます。楊奉は途中で李傕に叛き、のちに献帝救援に駆けつけ、配下の徐晃が郭汜軍を蹴散らす武名を示します。賈詡は開戦回避を進言するも容れられず去る知謀の士として対照的に置かれます。楊彪は反間計の仕掛け人として郭汜の家庭に楔を打ち込み、さらに両軍への和睦勧告・仲裁でも存在感を放ちます。
「郭汜」の基本情報
総登場回数
71回
活動期間
4巻にわたって登場
初回登場
群星の巻
最終登場
望蜀の巻
最も活躍した巻
群星の巻
(38回登場)